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介護ソフトの更新はなぜ遅い?現場が「自作」する時代と、その安全性の話

「この画面、もう少しこうならないかな」「文字が小さくて、ご高齢の職員さんが読みづらいんです」——介護の仕事を長くしていると、みんな一度は思ったことがあるはずです。

現場からすれば、ほんの小さな要望。でも返ってくる答えはたいてい決まっています。「次のバージョンアップで検討します」。その「次」が、半年後だったり、1年後だったり、来なかったり。

この記事では、介護ソフトの更新はなぜ遅いのかを現場の視点で分解したうえで、AIで現場が自分の道具を作れる時代の可能性と、そこで新しく必要になる安全性のチェックについて書きます。

介護ソフトの更新が遅い理由は「技術」ではなく「構造」

介護ソフト(SaaS)の更新が遅い理由を、3つに分けて考えてみます。

1. 全国何千という施設の「共通項」しか作れない

SaaSは、たくさんの施設が同じソフトを使うことで成り立っています。だから、ある施設だけの事情、あるやり方には基本的に合わせられません。「みんなに当てはまる最大公約数」を作るしかなく、現場の細かい「うちはこうしたい」は優先順位のずっと下に沈みます。

2. 制度改正への対応で開発の手が埋まっている

介護報酬は3年ごとに改定されます。加算の要件が変わり、様式が変わり、請求のルールも変わる。ソフト会社は、まずここに全力を注がなければいけません。間違えると施設にお金が入らないからです。「ボタンを押しやすくする」より「請求が通る」が先。当然の順番です。

3. 一度作った画面は簡単には変えられない

大勢が毎日使うシステムは、うかつに変更できません。良かれと思った変更で現場が混乱すれば、責任は重い。だから慎重になり、慎重になるほど遅くなる。

つまり、遅さは怠慢ではなく、SaaSという形が背負っている宿命なのです。ソフト会社の担当者さんが悪いわけではありません。仕組みとして、そのスピードでしか動けないのです。

「待つ」のをやめて、自分で作ってみた

ここからは、私自身が実際にやってみた話です。

うちの現場には、外国から来てくれたスタッフがいます。利用者さんのことも仕事のことも、本当に一生懸命です。ただ、日本語の「介護記録」を書くところで、いつも手が止まっていました。話すことはできる。でも、記録として通用する日本語の文章にするのが難しい。

これを既存ソフトの機能追加で待っていたら、たぶん何年経っても来ません。「外国人スタッフの記録支援」は、全国共通のニーズにはなりにくいからです。

そこで、カテゴリを選んでチェックを入れるだけで、AIが正式な介護記録の文章に整えてくれる小さなツールを作りました。外国語での用語解説もつけました。困りごとを聞いてから現場で使えるようになるまで、数日です。

レイレイ
レイレイ

高価なシステムでも、世界を変えるものでもありません。でも、目の前のあの人の「手が止まる時間」は確かに短くなりました。「次のバージョンで」と言わずに済んだ——これが私にとっていちばん大きな変化でした。

数年前なら、専門の会社に頼んで何十万円もかけ、何ヶ月も待つ話でした。それが、AIのおかげで、現場の人間の手の届くところに降りてきたのです。しかも私の場合、記録などのデータを外のクラウドに預けず、多くは手元の端末の中だけで動かす作り方をしています。

「作れる」の次に来る問題——誰がその安全を守るのか

ここまでは明るい話です。でも、自分でツールを作るようになって、私はもうひとつの現実に気づきました。作る力はAIで手に入った。けれど、”守る目”はまだ手に入っていないのです。

正直に告白します。以前、自分で作ったあるツールを夜に見直していて、血の気が引いたことがあります。「端末の中だけで完結しているつもり」だったデータが、実は設定次第では外から取れてしまう状態になっていたのです。すぐ直しました。でも、もし気づかなかったら——と思うと、いまでも背筋が寒くなります。

大事なのは、それに気づいたのがたまたまだったこと。ツールを作れるくらいには分かっている人間でも、深夜に偶然気づくレベルの見落としをする。「作れる」と「安全に作れる」は、まったく別の能力なのだと身をもって知りました。

しかも、介護のツールが扱うのは、よりによっていちばん重いデータです。お名前、心身の状態、生活の歴史——法律で「要配慮個人情報」と呼ばれる、最も慎重に扱うべき情報。趣味のアプリが漏れるのとは、事故の重さが桁違いです。

だから私は、これから「現場が作った小さなツールを、第三者が点検して助言する」役割が本当に必要になると思っています。

  • このデータ、本当に外から見えないか
  • 鍵(パスワードのような情報)が、うっかり表に出ていないか
  • 「ログインしているつもり」が、実は素通りできてしまわないか
  • 個人が特定される要素が、公開の場所に出ていないか

作る人の善意だけでは、どうしても抜け落ちます。だからこそ、「これは安全です」と第三者が言える仕組みに価値が生まれるのだと思います。

ただ、それが「1件ずつ人が診るセキュリティ会社」の形になるかはわかりません。現場の作り手に、そのための予算があるとは限らないからです。むしろ現実的には、公開前にAIが自動でチェックしてくれる工程や、危ないことが最初からできない”安全な土台”を配るやり方、あるいは「第三者チェック済み」という信頼の印——そんな形に落ち着いていくのかもしれません。

これから起きるのは「置き換え」ではなく「二層化」

では、介護ソフトは全部いらなくなるのでしょうか。いいえ、そうは思いません。自分で作ってみたからこそ、はっきり見えた壁があります。

  • 請求(レセプト):国保連への請求は仕様が細かく、間違えるとお金が返ってくる(返戻)。個人の手作りで背負うにはリスクが重すぎます。
  • 監査に耐える記録の証跡:「誰が・いつ・何を書き換えたか」を残し、決められた年数きちんと保存する。これは速さではなく責任の問題です。
  • 施設全体・多職種でのデータ共有:手元で完結する手軽さは、大人数で同じデータを扱う場面ではむしろ弱点になります。

この「重たい根っこ」は、これからも専門のソフトが担っていくと思います。そこはプロに任せたほうがいい。だからこれから起きるのは、置き換えではなく二層化です。

  • 重い根っこ(請求・法定の台帳・全体のデータ管理)は、これまで通りソフト会社が担う
  • その周りの現場の運用レイヤー(記録の下書き、細かい見守り、使いやすさの工夫)を、AIで現場が自分のスピードで作る軽いツールが埋めていく

そして後者は、もう専門の会社を待たなくていい。困っている人のいちばん近くにいる、現場の私たちが作れるのです。

おわりに

道具は、目的ではありません。記録を早く終わらせたいのは、その分だけご利用者さんの顔を見る時間を増やしたいから。ボタンを押しやすくしたいのは、一緒に働く仲間の「手が止まる時間」を減らしたいからです。

「次のバージョンで検討します」と言われてあきらめていた、小さな困りごと。その多くが、いま、待たずに解決できる時代に入りました。そして同時に、「作れる」だけでなく「安全に使い続ける」ことを考える時代でもあります。

レイレイ
レイレイ

もし現場に、ずっと直らない小さな不便があるなら。それはもう、あなたの現場の手で直せるものかもしれません。

※この記事は、介護の現場で実際にツールづくりをしている立場から書いています。特定の施設・製品を批判する意図はありません。

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