外国人スタッフにも参加してもらう感染対策の研修がありました。題材は吐物処理。日本人スタッフ向けのPowerPoint資料はすでにあります。あとは漢字が読めない人のためにルビを振るだけ——そう思っていました。
そこで最初に詰まりました。この記事は、詰まったところと、最終的にどうやって「当日そのまま配れる形」にしたかの記録です。
PowerPointに、ルビを振る機能はありますか?
ありません。
Wordには「拡張書式」からルビを振る機能があります。PowerPointにはそれがない。ここを勘違いしたまま探し続けると時間を使います。先に結論だけ持っておいてください。パワポにルビは振れません。
では、括弧書きでひらがなを足せばよいのでは?
私も最初はその方法をとりました。
吐物(とぶつ)処理(しょり)の手順(てじゅん)
一行ならこれで読めます。ところがスライド全体に当てると、文字数が一気に増えます。文字数が増えれば行数が増え、行数が増えればスライドに収まらなくなる。収めようとして文字を小さくすると、今度は読めない。
結果として、ルビを振る前より読みにくいスライドになりました。 漢字が読めない方に渡す資料なのに、これでは本末転倒です。この案は使いませんでした。
では、どうしたのですか?
パワポには一切手を入れず、別紙をつくりました。
研修で映すスライドはそのまま。手元に配る紙だけを、ルビ付きの別資料にする。この切り分けにしたとたん、問題がほとんど消えました。
- スライドのレイアウトが崩れない(そもそも触らない)
- 紙はA4で組み直せるので、行数が増えても問題にならない
- 日本人スタッフに配る紙と、外国人スタッフに配る紙を分けなくてよい
最後の点が、思っていたより効きました。
ルビは、消せるようにしました
別紙はHTMLでつくり、ボタンひとつでふりがなを表示/非表示にできるようにしています。印刷するときにボタンは出ません。
- 外国人スタッフに渡す分は、ふりがなを出した状態で印刷する
- 日本人スタッフに渡す分は、ふりがなを消して印刷する
同じ1ファイルで両方まかなえます。資料を2種類つくって、片方だけ直し忘れる、ということが起きません。A4で印刷すれば、そのままPDFにもなります。
読みを「画像」で文字の上に重ねる方法もあります
別のやり方も提案してもらいました。ひらがなを画像にして、漢字の上に置く方法です。パワポの図形として重ねるので、本文の文字数は増えません。
実際に試したところ、スライドショーで再生してみないと位置のずれが分からないという手間はありますが、ほぼルビとして成り立っていて、資料としては十分使えるものでした。
スライド自体にどうしてもルビが要る場合は、この方法が現実的です。括弧書きよりは確実に読みやすくなります。
研修動画も、持ち帰れる紙にしたい
もうひとつ用意したかったものがあります。研修で使う動画(8分50秒)を、当日の手元資料にすることです。
動画は研修の場では分かりやすいのですが、終わって現場に戻ると手元に何も残りません。吐物処理は「いざという時に慌てない」ための手順なので、あとから見返せる紙が要ると考えました。
ここでも壁がありました。動画の音声が、すべてテロップになっているわけではないのです。画面に出ている文字だけを拾っても、資料にはなりません。
動画から紙をつくるまでの流れ
やったことは4つです。
- 文字起こしを取る(音声で説明されている部分を文字にする)
- 言い回しを整える(現場の言葉に直す)
- 場面ごとの静止画を切り出す(手順の写真として使う)
- 写真+ルビ付きの説明を組み合わせて、A4のHTMLとPDFにする
できあがったのは、写真28枚・手順19ステップのA4資料です。物品のチェックリスト(☐に印をつけられる形)も入れました。そのまま印刷して配れます。
自動の文字起こしは、そのまま使えますか?
使えません。ここが一番の注意点です。
動画サービスの自動字幕は、介護の言葉にとても弱いです。実際に出てきた誤変換を挙げます。
| 自動字幕 | 正しくは |
|---|---|
| 都物処理 | 吐物処理 |
| 過護の低位置 | かごの定位置 |
| 臨気応変 | 臨機応変 |
| スカイステガウン | 使い捨てガウン |
| 主脂消毒液 | 手指消毒液 |
| ノウイルス | ノロウイルス |
このまま資料にしていたら、新人さんが覚える言葉が最初から間違っていることになります。
直し方は単純で、画面に出ている文字(スライド)と突き合わせることです。今回は、切り出した静止画を1枚ずつ確認しました。そのおかげで、音声だけでは拾えなかった具体的な数字も資料に入りました。
- ゴミ袋は「大きめ」ではなく45リットル・3枚
- ウェットティッシュは20cm×30cmのノンアルコール
- 回収袋を後から広げる理由は「粉じんの飛散を防ぐため」
数字が入ると、備品を揃える人が迷いません。
危ないところは、必ず現物で確かめる
ひとつ、ひやりとした場面があります。
自動字幕では「手袋は2枚重ねて着用します」と聞こえました。一方で、物品リストには「手袋は3セット使用します」とある。2枚なのか3枚なのか。感染対策の手順で、ここを間違えるわけにはいきません。
該当する場面の静止画を確認したところ、スライドにはっきり「②枚重ねて着用」と書かれていました。字幕が正しかったと分かって、そのまま資料にしています。
AIが書いた文章は読みやすいので、つい信じてしまいます。数字と手順だけは、必ず元の資料で確かめてください。
どれくらいの時間でできましたか?
この分量を手作業でつくるなら、3時間かかってもおかしくありません。動画を止めながら文字を起こし、画面を撮って貼り、漢字にひらがなを振る。どれも時間のかかる作業です。
実際にかかった時間は、指示を出している時間でいえば5分もかかりませんでした。
ただし、これは「勝手に全部できた」という意味ではありません。次の節のとおり、途中で詰まっています。
詰まったところ(正直に書きます)
動画の文字起こしを取るところまでは、ブラウザを操作できるAI(Claude in Chrome)が必要でした。 動画ページを開いて、文字起こしのパネルを出して、中身を取ってくる。ここは人が画面を触るのと同じことをしてもらう必要があります。
一方で、場面ごとの静止画を切り出すところは、ブラウザ操作ではうまくいきませんでした。 再生が48秒あたりで止まってしまい、何度やり直しても先に進まない。結局、動画を手元に落として、秒数を指定して切り出す方法に切り替えています。この切り替えで動くようになりました。
「AIに任せれば全部終わる」ではなく、うまくいかない道が1本あって、別の道に替えたというのが実際のところです。
明日からやるなら、この順番で
外国人スタッフ向けに研修資料を用意する立場の方へ、今回の手順をそのまま書いておきます。
- スライドは触らないと決める。ルビは別紙で用意する
- 別紙はふりがなを消せる形にする。日本人スタッフにも同じ紙を配れる
- 動画を使うなら、文字起こしを必ず人の目で直す。介護の言葉は自動変換が弱い
- 数字と手順は元の資料で確かめる。ここだけはAIに任せない
- スライド自体にルビが要るときは、括弧書きではなく、ひらがなの画像を重ねる
ルビを振る作業そのものより、「どこにルビを振るか」を決めるところが本題でした。パワポに振ろうとして詰まっていた時間が、いちばん長かったからです。
関連する記事・ツール
外国人スタッフの記録づくりには、無料のツールも公開しています。
- タップで介護記録 … 選んでいくだけで、介護記録の下書きができます(10言語対応) https://www.day-mame.com/caregiver-record/
- やさしい申し送りボード … 申し送りをやさしい日本語とルビで共有します https://www.day-mame.com/t/moushiokuri-board
AIの使い方をもう少し詳しく書いたものは、noteにまとめています。
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